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プロスペクト理論


更新日:Tuesday, 07-Mar-2023 02:35:11 JST

プロスペクト理論とは

プロスペクト理論とは、心理学を応用した経済行動学の理論のひとつです。

行動経済学者のダニエル・カーネマンとエイモス・トベルスキーが、1979年に提唱した理論で、後にこの理論でノーベル賞を受賞しています。

プロスペクト理論はそれまでの行動経済学では解明できなかったものを、心理学を導入して解明したという点で画期的なものでした。

人間は常に合理的な行動をするということを前提としていた従来の行動経済学では、現実の行動とのギャップがありました。

プロスペクト理論は、そんなギャップを埋めるために意思決定の不合理さを徹底的に観察して構築された、より現実に即した理論といえます。

プロスペクト理論の実験

確率が関係するくじ引きでは「期待値」という観念があります。期待値は「報酬×確率」で表すことができます。

ケース1

A:必ず4,000円が当たる(期待値4,000円)
B:80%で5,000円が当たるが20%ははずれ(期待値5,000円×80%=4,000円)

ケース2

A:必ず4,000円を支払う(期待値-4,000円)
B:80%で5,000円を支払うが、20%で支払免除(期待値-4,000円)

ケース1ではAを選ぶ人が大半となりますが、ケース2ではBを選ぶ人が大半となります。

合理的に考えるとどれも期待値が同じなので、どちらかに偏ることは合理的ではありません。さらにお金をもらえる場合にはA支払が発生する場合はBに偏りがあります。

これらの偏りや疑問を解決するのがプロスペクト理論ですが、プロスペクト理論には重要な概念が2つあります。

プロスペクト理論の価値関数と確率加重関数

プロスペクト理論では人が不合理な決定をする要因となるひずみを次の2つにあると提唱しています。

価値関数

利益と損失を比べてみると、心理的には同じ金額でも損失の方が大きいと感じてしまう価値のゆがみを表す関数です。

具体的には10万円利益を得たときの喜びよりも、10万円損をしたときのショックの方が大きいことを示す関数です。

確率加重関数

高い確率は低く、低い確率を高く感じてしまう心理を表した関数です。
宝くじの確率は非常に低いものですがそれでも購入者が多いのは、たとえば1,000万分の1の確率とわかっていても、当たりそうな気がすると思ってしまう人が多いからです。

反対にもし医者に「手術の成功率は80%です」と言われた時を考えてみると、高い確率にもかかわらず不安を覚える人は少なからずいるはずです。

このように人は確率を数字通りには受け取らず、高いときは低く、低いときは高く感じる傾向があります。

これには、いくら確率が低くても宝くじに当たる人はいるし、いくら高い確率でも手術が失敗することもあるという事実が、心理に影響していると考えられます。

同じ期待値でも心理が異なる理由

プロスペクト理論の実験では同じ期待値にもかかわらず選択が偏っていましたが、その理由はプロスペクト理論の価値関数で説明が可能です。

価値関数をグラフにすると金額が大きいほど嬉しさの度合いも大きくなりますが、それは直線ではなく曲線で表されます。

4,000円の利益を得たときの嬉しさが4,000だとすると、5,000円の嬉しさは5,000円未満となります。それを仮に4,500とすると80%の確率をかけた期待値は4,000を下回ってしまいます。

そのため、100%で4,000円をもらえる方が、80%で5,000円をもらえるよりも嬉しいという結果になります。

100%で4,000円を支払う場合と80%で5,000円を支払う場合も同じで、この場合の「損の度合い」は80%で5,000円の方が低い(仮に4,500とする)ので、確率をかけた後の損の度合いは3,600となり、100%で4,000円を支払う損の度合いよりも低くなるのです。

プロスペクト理論の応用

プロスペクト理論では人は利益よりも損失を重く評価すると考えています。株式投資などで100万円の利益を得た直後に50万円の損失が発生した場合を考えてみるとよくわかります。

50万円を損失しても50万円の利益は確保しているので、理論的にはまだ利益を得ているので嬉しいはずですが、ほとんどの人は損をしたというショックの方が大きいでしょう。

このように、人は利益をいくら得ているとしても損失をすることに恐れを感じてしまうのです。これをビジネスに応用することができます。

フィア・アピール

フィア・アピールは恐怖をアピールするという意味で、商品を使わなかった場合のリスクを強調する手法です。

以下の例では後者がプロスペクト理論を応用したフィア・アピールの宣伝文句になります。

  • 「この保険に入ると安心です」 → 「保険に入っていないとあなたに万一のことがあれば家族はどうなりますか?」
  • 「この教材を使うと正しい英語が身につきます」 → 「正しく英語が話せないと相手を怒らせるかもしれません」

上記のように商品を購入しなければ損失が発生することを強調することで、購買意欲を高めることも可能になります。

リスク・リバーサル

フィア・アピールとまったく正反対の手法がリスク・リバーサルです。つまり、顧客の不安を取り除くことで商品を購入してもらう手法になります。

消費者が商品を購入する場合は、常に価格に見合った効果や価値があるかどうかを気にします。つまり損をするリスクを恐れて購入に躊躇するのです。

それを防ぐための以下の方法が、リスク・リバーサルの一例です。

  • 返金保証
  • 修理保証
  • カスタマーサポート
  • 分割払い

フレーミング効果

フレーミング効果はプロスペクト理論を情報伝達の応用したものです。プロスペクト理論には「利益が出ているときは安定志向、損失が出ているときはリスク志向になる」という理論が含まれています。

これはギャンブルを考えるとわかりやすくなります。カジノで勝っている人は利益を減らさないように慎重になり、損をしている人は損を取り戻そうとしてリスクを冒します。

合理的に考えれば反対の行動をするのが理にかなっていますが、人の心理は逆になってしまいます。

フレーミング効果ではプロスペクト理論を応用して、同じ内容でも表現方法によって見る人の印象を操作します。

  • 1個5,000円の商品を半額
  • 1個5,000円の商品を2個買うと1個無料

上記はどちらも1個あたりの価格は同じですが、後者の方がよりお得に感じてしまうのは、プロスペクト理論では利益に関しては安定志向になるので、確実に1個無料になる表現の方が好まれるからです。

 

 

 

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